《まぶた》を紅《くれない》にして、お妙は友染の襦袢《じゅばん》ぐるみ袂の端を堅く握った。
「見ませんか、」
 と問返した時、教頭は傲然《ごうぜん》として、卓子に頤杖《あごづえ》を支《つ》く。
「ええ、」とばかりで、お妙は俯向《うつむ》いて、瞬きしつつ、流眄《しりめづかい》をするのであった。
「別に、一大事に関して早瀬は父様の許《とこ》へ、頃日《このごろ》に参った事はないですかね。或《あるい》は何か貴娘、聞いた事はありませんか。」
 小さな声だったが判然《はっきり》と、
「いいえ。」と云って、袖に抱いた風呂敷包みの紫を、皓歯《しらは》で噛《か》んだ。この時、この色は、瞼のその朱《あけ》を奪うて、寂《さみ》しく白く見えたのである。
「行かん筈《はず》はないでしょうが、貴娘、知っていて、まだ私の前に、秘《かく》すのじゃないかね。」
「存じませんの。」
 と頭《つむり》を掉《ふ》ったが、いたいけに、拗《す》ねたようで、且つくどいのを煩《うる》さそう。
「じゃ、まあ、知らないとして。それから、お話するですがね。早瀬は、あれは、攫徒《すり》の手伝いをする、巾着切《きんちゃくきり》の片割のような男で
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