て、臈《ろう》たけた眉が、雲の生際に浮いて見えるように俯向《うつむ》いているから、威勢に怖《お》じて、頭《かしら》も得《え》上げぬのであろう、いや、さもあらん、と思うと……そうでない。酒井先生の令嬢は、笑《えみ》を含んでいるのである。
それは、それは愛々しい、仇気《あどけ》ない微笑《ほほえみ》であったけれども、この時の教頭には、素直に言う事を肯《き》いて、御前《おんまえ》へ侍《さぶら》わぬだけに、人の悪い、与《くみ》し易からざるものがあるように思われた。で、苦い顔をして、
「酒井さん、ここへ来なくちゃ不可《いか》んですよ。」
時に教頭胸を反《そ》らして、卓子《テイブル》をドンと拳《こぶし》で鳴らすと、妙子はつつと勇ましく進んで、差向いに面《おもて》を合わせて、そのふっくりした二重瞼《ふたかわめ》を、臆《おく》する色なく、円く※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って、
「御用ですか。」
と云った風采、云い知らぬ品威が籠《こも》って、閑耕は思いかけず、はっと照らされて俯向《うつむ》いた。
教場でこそあれ、二人だけで口を利くのは、抑々《そもそも》生れて以来|最初《はじめ
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