うのである。
「蔦吉さんが、どんなに何《なん》したって、私が知らない顔をしていれば可《よ》かったのですけれど、思う事は誰も同一《おなじ》だと、私、」
 と襟に頤《おとがい》深く、迫った呼吸《いき》の早口に、
「身につまされたもんだから、とうとうこんな事にしてしまって、元はと云えば……」
「そんな、貴女《あなた》が悪いなんて、そんな事があるもんですか。」
 と酒井の前を庇《かば》う気で、肩に力味《りきみ》を入れて云ったが、続いて言おうとする、
(貴女がお世話なさいませんでも……)の以下は、怪しからず、と心着いて、ハッとまた小さくなった。
「いいえ、私が悪いんです。ですから、後で叱られますから、貴下、ともかくもお帰んなすって……」
「ならん! この場に及んで分別も糸瓜《へちま》もあるかい。こんな馬鹿は、助けて返すと、婦《おんな》を連れて駈落《かけおち》をしかねない。短兵急に首を圧《おさ》えて叩っ斬ってしまうのだ。
 早瀬。」
 と苛々した音調で、
「是も非も無い。さあ、たとえ俺が無理でも構わん、無情でも差支えん、婦《おんな》が怨んでも、泣いても可い。憧《こが》れ死《じに》に死んでも可い。先
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