て、先生の目から面《おもて》を背ける。
 酒井は、杯を、つっと献《さ》し、
「早瀬、近う寄れ、もっと、」
 と進ませ、肩を聳《そびや》かして屹《きっ》と見て、
「さあ、一ツ遣ろう。どうだ、別離《わかれ》の杯にするか。」
「…………」
「それとも婦《おんな》を思切るか。芳、酌《つ》いでやれ、おい、どうだ、早瀬。これ、酌いでやれ、酌がないかよ。」
 銚子を挙げて、猪口《ちょく》を取って、二人は顔を合せたのである。

       四十五

 その時、眼光稲妻のごとく左右を射て、
「何を愚図々々《ぐずぐず》しているんだ。」
「私がお願いでござんすから、」と小芳は胸の躍るのを、片手で密《そっ》と圧《おさ》えながら、
「ともかくも今夜の処は、早瀬さんを帰して上げて下さいまし。そうしてよく考えさして、更《あらた》めてお返事をお聞きなすって下さいましな、後生ですわ、貴郎《あなた》。
 ねえ、早瀬さん、そうなさいよ。先生も、こんなに仰有《おっしゃ》るんですから、貴下《あなた》もよく御分別をなさいまし、ここは私が身にかえてお預り申しますから。よ……」
 と促がされても立ちかねる、主税は後を憂慮《きづか》
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