一時過ぎてからの座敷じゃないか。」
「御免なさいよ、苦界だわ。ねえ、早瀬さん、さあ、めしあがれよ、ぐうと、」
「いいえ、もう、」
主税は猪口《ちょく》を視《なが》むるのみ。
「お察しなさいよ。」
と先生にまたお酌をして、
「御贔屓《ごひいき》の民子ちゃんが、大江山に捕まえられていますから、助出しに行くんだわ。渡辺の綱次なのよ。」
「道理こそ、鎖帷子《くさりかたびら》の扮装《いでたち》だ。」
「錣《しころ》のように、根が出過ぎてはしなくって。姉さん、」
と髢《たぼ》に手を触る。
「いいえ、」
と云って、言《ことば》の内に、(そんな心配をおしでない。)の意味が籠る。綱次は、(安心)の体に、胸をちょいと軽く撫でて、
「おいしいものが、直ぐにあとから、」
「綱次姉さん、また電話よ。」
と廊下から雛妓《こども》の声。
「あい、あい、あちらでも御用とおっしゃる。では、直《じ》き行って来ますから、貴下《あなた》帰っちゃ、厭ですよ、民ちゃんを連れて来て、一所にまたお汁粉をね。」
酒井は黙って頷《うなず》いた。
「早瀬さん、御緩《ごゆっく》り。」
と行く春や、主税はそれさえ心細そうに見送っ
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