から塩で食うと、大口を開けられたように感じたそうで、襖の蔭で慄然《ぞっ》と萎《すく》んで壁の暗さに消えて行く。
慌てて、あとを閉めないで行ったから、小芳が心付いて立とうとすると、するすると裾を捌《さば》いて、慌《あわただ》しげに来たのは綱次。
唯今の注進に、ソレと急いで、銅壺《どうこ》の燗《かん》を引抜いて、長火鉢の前を衝《つ》と立ち状《ざま》に来た。
前垂掛けとはがらりと変って、鉄お納戸地に、白の角通《かくとお》しの縮緬《ちりめん》、かわり色の裳《もすそ》を払って、上下《うえした》対の袷《あわせ》の襲《かさね》、黒繻珍《くろしゅちん》に金茶で菖蒲《あやめ》を織出した丸帯、緋綸子《ひりんず》の長襦袢《ながじゅばん》、冷く絡んだ雪の腕《かいな》で、猶予《ため》らう色なく、持って来た銚子を向けつつ、
「お酌、」
冴えた音を入れると、鶯のほうと立つ、膳の上の陽炎《かげろう》に、電気の光が和《やわら》いで、朧々《おぼろおぼろ》と春に返る。
「まだ宵の口かい。」
「柏家だけではね。」と莞爾《にっこり》する。
「遠慮なく出懸けるが可い、しかし猥褻《わいせつ》だな。」
「あら、なぜ?」
「十
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