ば無礼だ、と誰が云ったい。これ、お前たちに掛けちゃ、己の目は暗《やみ》でも光るよ。飯田町の子分の内には、玄関の揚板の下に、どんな生意気な、婦《おんな》の下駄が潜んでるか、鼻緒の色まで心得てるんだ。べらぼうめ、内証《ないしょう》でする事は客の靴へ灸を据えるのさえ秘《かく》しおおされないで、(恐るべき家庭でごわります。)と道学者に言われるような、薄っぺらな奴等が、先生の目を抜こうなぞと、天下を望むような叛逆を企てるな。
 悪事をするならするように、もっと手際よく立派に遣れ。見事に己を間抜けにして見ろ。同じ叱言《こごと》を云うんでも、その点だけは恐入ったと、鼻毛を算《よ》まして讃《ほ》めてやるんだ。三下め、先生の目を盗んでも、お前なんぞのは、たかだか駈出しの(タッシェン、ディープ)だ。」
 これは、(攫徒《すり》)と云う事だそうである。主税は折れるように手をハッと支《つ》いた。
「恐入ったか、どうだ。」
「ですが、全く、その、そんな事は……」
「無い?」
「…………」
「芸者は内に居ないと云うのか。」
「はい。」
 霹靂《へきれき》のごとく、
「帰れ!」
 小芳が思わず肩を窘《すく》める。

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