あるにもあられず据身《すえみ》になって、
「誰がそういうことをお耳に入れましたか存じませんが、芸者が内に居りますなんてとんだ事でございます。やっぱり、あの坂田の奴が、怪しかりません事を。私《わたくし》は覚悟がございます、彼奴《あいつ》に対しましては、」と目の血走るまで意気込んだが、後暗い身の明《あかり》は、ちっとも立つのではなかった。
「覚悟がある、何の覚悟だ。己《おれ》に申訳が無くって、首を縊《くく》る覚悟か。」
「いえ、坂田の畜生、根もない事を、」
「馬鹿!」
と叱《しっ》して、調子を弛《ゆる》めて、
「も休み休み言え。失礼な、他人の壁訴訟を聞いて、根も無い事を疑うような酒井だと思っているか。お前がその盲目《めくら》だから悪い事を働いて、一端《いっぱし》己の目を盗んだ気で洒亜々々《しゃあしゃあ》としているんだ。
先刻《さっき》どうした、牛込見附でどうしたよ。慌てやあがって、言種《いいぐさ》もあろうに、(女中が寝ていますと失礼ですから。)と駈出した、あれは何の状《ざま》だ。婆《ばばあ》が高利貸をしていやしまい、主人《あるじ》の留守に十時前から寝込む奴がどこに在る。
また寝ていれ
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