は出来ん。なぜこっちから尋ねんのだ。こんな稼業だから、暇が無い。行通《ゆきかよい》はしないでも、居処が分らんじゃ、近火《きんか》はどうする! 火事見舞に町内の頭《かしら》も遣らん、そんな仲よしがあるものか、薄情だよ、水臭いよ。」
 姉さんの震えるのを見て、身から出た主税は堪《たま》りかねて、
「先生、」
 と呼んだが、心ばかりで、この声は口へは出なかった。
 酒井は耳にも掛けないで、
「済まん事さ、俺も他人でないお前を、薄情者にはしたくないから、居処を教えてやろう。
 堀の内へでも参詣《まい》る時は道順だ。煎餅の袋でも持って尋ねてやれ。おい、蔦吉は、当時飯田町五丁目の早瀬主税の処に居るよ。」
 真蒼《まっさお》になって、
「先生、」
「早瀬!」
 と一声|屹《きっ》となって、膝を向けると、疾風一陣、黒雲を捲《ま》いて、三世相を飛ばし来って、主税の前へはたと落した。
 眼の光射るがごとく
「見ろ! 野郎は、素袷《すあわせ》のすッとこ被《かぶり》よ。婦《おんな》は編笠を着て三味線《さみせん》を持った、その門附《かどつけ》の絵のある処が、お前たちの相性だ。はじめから承知だろう。今更本郷くんだ
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