知らんが、相変らず繁昌《はんじょう》か。」
三十九
小芳は我知らず、(ああ、どうしよう。)と云う瞳が、主税の方へ流るるのを、無理に堪《こら》えて、酒井を瞻《みまも》った顔が震えて、
「蔦吉さんはもう落籍《ひき》ましたそうです。」
と言わせも果てずに、
「(そうです。)は可怪《おかし》い。近所に居ながら、知らんやつがあるか、判然《はっきり》謂《い》え、落籍《ひい》たのか!」
「はい、」と伏目になったトタンに、優しげな睫毛《まつげ》が、(どうかなさいよ。)と、主税の顔へ目配せする。
酒井は、主税を見向きもしないで、悠々とした調子になり、
「そりゃ可い事をした、泥水稼業を留《や》めたのは芽出度い。で、どこに居る、当時は………よ?」
「私はよく存じませんので……あの、どこか深川に居るんですって。」
「深川? 深川と云う人に落籍されたのか、川向うの深川かい。」
「…………。」
「どうだよ、おい、知らない奴があるか。お前、仲が好くって、姉妹《きょうだい》のようだと云ったじゃないか。姉妹分が落籍たのに、その行先が分らない、べら棒があるもんかい。
姉さんとか、小芳さんとか云っ
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