濃い、生際《はえぎわ》の可《い》い、洗い髪を引詰《ひッつ》めた総髪《そうがみ》の銀杏返《いちょうがえ》しに、すっきりと櫛の歯が通って、柳に雨の艶《つや》の涼しさ。撫肩の衣紋《えもん》つき、少し高目なお太鼓の帯の後姿が、あたかも姿見に映ったれば、水のように透通る細長い月の中から抜出したようで気高いくらい。成程この婦《おんな》の母親なら、芸者家の阿婆《おっかあ》でも、早寝をしよう、と頷《うなず》かれる。
「まあ、よくいらしってねえ。」
 と主税の方へ挨拶して、微笑《ほほえ》みながら、濃い茶に鶴の羽小紋の紋着《もんつき》二枚|袷《あわせ》、藍気鼠《あいけねずみ》の半襟、白茶地《しらちゃじ》に翁格子《おきなごうし》の博多の丸帯、古代模様空色|縮緬《ちりめん》の長襦袢《ながじゅばん》、慎ましやかに、酒井に引添《ひっそ》うた風采《とりなり》は、左支《さしつか》えなく頭《つむり》が下るが、分けてその夜《よ》の首尾であるから、主税は丁寧に手を下げて、
「御機嫌|宜《よ》う、」と会釈をする。
 その時、先生|撫然《ぶぜん》として、
「芸者に挨拶をする奴があるか。」
 これに一言句《ひともんく》あるべき処
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