燈籠の影に送られ、御神燈の灯に迎えられつつ、地《つち》の濡れた、軒に艶《つや》ある、その横町の中程へ行くと、一条《ひとすじ》朧《おぼろ》な露路がある。
 芸妓家《げいしゃや》二軒の廂合《ひあわい》で、透かすと、奥に薄墨で描いたような、竹垣が見えて、涼しい若葉の梅が一木《ひとき》、月はなけれど、風情を知らせ顔にすっきりと彳《たたず》むと、向い合った板塀越に、青柳の忍び姿が、おくれ毛を銜《くわ》えた態《てい》で、すらすらと靡《なび》いている。
 梅と柳の間を潜《くぐ》って、酒井はその竹垣について曲ると、処がら何となく羽織の背の婀娜《あだ》めくのを、隣家《となり》の背戸の、低い石燈籠がト踞《しゃが》んだ形で差覗《さしのぞ》く。
 主税は四辺《あたり》を見て立ったのである。
 先生がその肩の聳《そび》えた、懐手のまま、片手で不精らしくとんとんと枝折戸《しおりど》を叩くと、ばたばたと跫音《あしおと》聞えて、縁の雨戸が細目に開いた。
 と派手な友染の模様が透いて、真円《まんまる》な顔を出したが、燈《あかり》なしでも、その切下げた前髪の下の、くるッとした目は届く。隔ては一重で、つい目の前《さき》の、
前へ 次へ
全428ページ中123ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング