丁子巴の紋を見ると、莞爾々々《にこにこ》と笑いかけて、黙って引込《ひっこ》むと、またばたばたばた。
 程もあらせず、どこかでねじを圧したと見える、その小座敷へ、電燈が颯《さっ》と点《つ》くのを合図に、中脊で痩《やせ》ぎすな、二十《はたち》ばかりの細面《ほそおもて》、薄化粧して眉の鮮明《あざやか》な、口許《くちもと》の引緊《ひきしま》った芸妓《げいこ》島田が、わざとらしい堅気づくり。袷《あわせ》をしゃんと、前垂がけ、褄《つま》を取るのは知らない風に、庭下駄を引掛《ひっか》けて、二ツ三ツ飛石を伝うて、カチリと外すと、戸を押してずッと入る先生の背中を一ツ、黙言《だんまり》で、はたと打った。これは、この柏屋《かしわや》の姐《ねえ》さんの、小芳《こよし》と云うものの妹分で、綱次《つなじ》と聞えた流行妓《はやりっこ》である。
「大層な要害だな。」
「物騒ですもの。」
「ちっとは貯蓄《たま》ったか。」
 と粗雑《ぞんざい》に廊下へ上る。先生に従うて、浮かぬ顔の主税と入違いに、綱次は、あとの戸を閉めながら、
「お珍らしいこと。」
「…………。」
「蔦吉姉さんはお達者?」と小さな声。
 主税はヒヤリとし
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