て》を合わせて、
「はははははは、今日《こんち》あ、」
「何かい、それで腹を立って行《ゆ》かないのかい。」
「そこはお前さんに免じて肝《かん》の虫を圧《おさ》えつけた。翌日《あくるひ》も廻ったがね、今度は言種《いいぐさ》がなお気に食わねえ。
今日はもうお菜《かず》が出来たから要らないよサ。合点《がってん》なるめえじゃねえか。私《わっし》が商う魚だって、品に因っちゃ好嫌《すききれ》えは当然《あたりめえ》だ。ものを見てよ、その上で欲しくなきゃ止すが可い。喰いたくもねえものを勿体《もってえ》ねえ、お附合いに買うにゃ当りやせん、食もたれの※[#「口+愛」、第3水準1−15−23]《おくび》なんぞで、せせり箸をされた日にゃ、第一|魚《うお》が可哀相だ。
こっちはお前《めえ》、河岸で一番首を討取る気組みで、佳いものを仕入れてよ、一ツおいしく食わせてやろうと、汗みずくで駈附けるんだ。醜女《すべた》が情人《いろ》を探しはしめえし、もう出来たよで断られちゃ、間尺に合うもんじゃねえ。ね、蔦ちゃんの前だけれど、」
「今度は私が背後《うしろ》を向こうか。」
とお蔦は、下に居る女中の上から、向うの棚へ手を
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