へ飛ぶから間違《まちがい》はないのだが、怪我《けが》に屋根へ落すと、草葺《くさぶき》が多いから過失《あやまち》をしでかすことがある。樹島は心得て吹消した。線香の煙の中へ、色を淡《うす》く分けてスッと蝋燭の香が立つと、かあかあと堪《たま》らなそうに鳴立てる。羽音もきこえて、声の若いのは、仔烏《こがらす》らしい。
「……お食《あが》り。」
 それも供養になると聞く。ここにも一羽、とおなじような色の外套《がいとう》に、洋傘《こうもり》を抱いて、ぬいだ中折帽《なかおれ》を持添えたまま葎《むぐら》の中を出たのであった。
 赤門寺に限らない。あるいは丘に、坂、谷に、径《こみち》を縫う右左、町家《まちや》が二三軒ずつ門前にあるばかりで、ほとんど寺つづきだと言っても可《い》い。赤門には清正公が祭ってある。北辰妙見《ほくしんみょうけん》の宮、摩利支天の御堂《みどう》、弁財天の祠《ほこら》には名木の紅梅の枝垂《しだ》れつつ咲くのがある。明星の丘の毘沙門天《びしゃもんてん》。虫歯封じに箸《はし》を供うる辻の坂の地蔵菩薩《じぞうぼさつ》。時雨の如意輪観世音。笠守《かさもり》の神。日中《ひなか》も梟《ふくろう》
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