夫人利生記
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)瑠璃色《るりいろ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十八九年|不沙汰《ぶさた》した

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「りっしんべん+刀」、第3水準1−84−38]
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 瑠璃色《るりいろ》に澄んだ中空《なかぞら》の樹《こ》の間から、竜が円い口を張開いたような、釣鐘の影の裡《なか》で、密《そっ》と、美麗な婦《おんな》の――人妻の――写真を視《み》た時に、樹島《きじま》は血が冷えるように悚然《ぞっ》とした。……
 山の根から湧《わ》いて流るる、ちょろちょろ水が、ちょうどここで堰《いせき》を落ちて、湛《たた》えた底に、上の鐘楼の影が映るので、釣鐘の清水と言うのである。
 町も場末の、細い道を、たらたらと下りて、ずッと低い処から、また山に向って径《こみち》の坂を蜒《うね》って上る。その窪地《くぼち》に当るので、浅いが谷底になっている。一方はその鐘楼を高く乗せた丘の崖《がけ》で
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