う》……此経難持《しきょうなんじ》、若暫持《にゃくざんじ》、我即歓喜《がそくかんぎ》……一切天人皆応供養《いっさいてんにんかいおうくよう》。――」
チーン。
「ありがとう存じます。」
「はいはい。」
「御苦労様でございました。」
「はい。」
と、袖《そで》に取った輪鉦形《りんなり》に肱《ひじ》をあげて、打傾きざまに、墓参の男を熟《じっ》と視《み》て、
「多くは故人になられたり、他国をなすったり、久しく、御墓参の方もありませぬ。……あんたは御縁辺であらっしゃるかの。」
「お上人様。」
裾《すそ》冷く、鼻じろんだ顔を上げて、
「――母の父母《ふたおや》、兄などが、こちらにお世話になっております。」
「おお、」と片足、胸とともに引いて、見直して、
「これは樹島の御子息かい。――それとなくおたよりは聞いております。何よりも御機嫌での。」
「御僧様《あなたさま》こそ。」
「いや、もう年を取りました。知人《しりびと》は皆二代、また孫の代《よ》じゃ。……しかし立派に御成人じゃな。」
「お恥かしゅう存じます。」
「久しぶりじゃ、ちと庫裡《あれ》へ。――渋茶なと進ぜよう。」
「かさねまして、いずれ
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