ちょうめんに、硯《すずり》に直って、ごしごしと墨をあたって、席書をするように、受取を――
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記
一金……円也
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「ま、ま、摩……耶の字?……ああ、分りました。」
「御主人。」
と樹島が手を挙げて、
「夫人のお名は、金員の下でなく、並べてか、……上の方へ願います。」
「あ、あ、あい分りました。」
「御丁寧に。……では、どうぞ。……決して口を出すのではありませんが、お顔をどうぞ、なりたけ、お綺麗になすって下さい。……お仕事の法にかなわないかは分りませんが。」
「ああ、いえ。――何よりも御容貌が大切でございます。――赤門寺のお上人は、よく店へお立寄り下さいますが、てまえどもの方の事にも、それはお悉《くわ》しゅうございましてな。……お言《ことば》には――相好《そうごう》説法――と申して、それぞれの備ったおん方は、ただお顔を見たばかりで、心も、身も、命も、信心が起《おこ》るのじゃと申されます。――わけて、御女体、それはもう、端麗微妙《たんれいみみょう》の御面相でなければあいなりません。――……てまいただ、力、力が、腕、腕がござりましょうか、いか
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