歳《みッつ》になりますが、ええ、もう、はや――ああ、何、お茶一つ上げんかい。」
と、茶卓に注《つ》いで出した。
「あ、」
清水にきぬ洗える美女である。先刻《さっき》のままで、洗いさらした銘仙《めいせん》の半纏《はんてん》を引掛《ひっか》けた。
「先刻は。」
「まあ、あなた。」
「お目にかかったか。」
「ええ、梅鉢寺の清水の処で、――あの、摩耶夫人様のお寺をおききなさいました。」
渠《かれ》は冷い汗を流した。知らずに聞いた路なのではなかったのである。
「御信心でございますわね。」
と、熟《じっ》と見た目を、俯目《ふしめ》にぽッと染めた。
むっくりとした膝を敲《たた》いて、
「それは御縁じゃ――ますます、丹、丹精を抽んでますで。」
「ああ、こちらの御新姐《ごしんぞ》ですか。」
と、吻《ほっ》として、うっかり言う。
「いや、ええ、その……師、師匠の娘でござりまして。」
「何ですね、――ねえ、……坊や。」
と、敷居の内へ……片手づきに、納戸へ背向《そがい》に面《おもて》を背けた。
樹島は謝礼を差出した。出来《しゅったい》の上で、と辞して肯《がえん》ぜぬのを、平にと納めさすと、き
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