いきおい》を得て、すぐに一体を誂《あつら》えたのであった。――
「……なれども、おみだしに預りました御註文……別して東京へお持ちになります事で、なりたけ、丹、丹精を抽《ぬき》んでまして。」
と吃《ども》って言う。
「あなた、仏様に御丹精は、それは実に結構ですが、お礼がお礼なんですから、お骨折ではかえって恐縮です。……それに、……唯今《ただいま》も申しました通り、然るべき仏壇の用意もありません。勿体なくありません限り、床の間か、戸袋の上へでもお据え申そうと思いますから、かたがた草双紙|風俗《ふう》にとお願い申したほどなんです。――本式ではありません。※[#「りっしんべん+刀」、第3水準1−84−38]利天《とうりてん》のお姿では勿体ないと思うのですから。……お心安く願います。」
「はい、一応は心得ましてござります。なお念のために伺いますが、それでは、むかし御殿のお姫様、奥方のお姿でござりますな。」
「草双紙の絵ですよ。本があると都合がいいな。」
樹島は巻莨《まきたばこ》を吸いさして打案じつつ、
「倭文庫《やまとぶんこ》。……」
「え、え、釈迦八相――師匠の家にございまして、私《てまえ
前へ
次へ
全34ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング