に》を町口へ出はずれの窮路、陋巷《ろうこう》といった細小路で、むれるような湿気のかびの一杯に臭《にお》う中に、芬《ぷん》と白檀《びゃくだん》の薫《かおり》が立った。小さな仏師の家であった。
 一小間《ひとこま》硝子《がらす》を張って、小形の仏龕《ぶつがん》、塔のうつし、その祖師の像《かたち》などを並べた下に、年紀《としごろ》はまだ若そうだが、額のぬけ上った、そして円顔で、眉の濃い、目の柔和な男が、道の向うさがりに大きな塵塚《ちりづか》に対しつつ、口をへの字|形《なり》に結んで泰然として、胡坐《あぐら》で細工盤に向っていた。「少々拝見を、」と云って、樹島は静《しずか》に土間へ入って、――あとで聞いた預りものだという仏《ぶつ》、菩薩《ぼさつ》の種々相を礼しつつ、「ただ試みに承りたい。大《おおき》なこのくらいの像《すがた》を一体は。」とおおよその値段を当った。――冷々《ひやひや》とした侘住居《わびずまい》である。木綿縞《もめんじま》の膝掛《ひざかけ》を払って、筒袖のどんつくを着た膝を居《すわ》り直って、それから挨拶した。そッときいて、……内心恐れた工料の、心づもりよりは五分の一だったのに勢《
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