ろし》ばかり。道具屋は、稚《おさな》いのを憐《あわ》れがって、嘘で庇《かば》ってくれたのであろうも知れない。――思出すたびに空恐ろしい気がいつもする。
――おなじ思《おもい》が胸を打った。同時であった、――人気勢《ひとけはい》がした。――
御廟子《みずし》の裏へ通う板廊下の正面の、簾《すだれ》すかしの観音びらきの扉《と》が半ば開きつつ薄明《うすあかる》い。……それを斜《ななめ》にさし覗《のぞ》いた、半身の気高い婦人がある。白衣に緋を重ねた姿だと思えば、通夜の籠堂《こもりどう》に居合せた女性《にょしょう》であろう。小紋の小袖に丸帯と思えば、寺には、よき人の嫁ぐならいがある。――あとで思うとそれも朧《おぼろ》である。あの、幻の道具屋の、綺麗な婦《ひと》のようでもあったし、裲襠姿振袖《うちかけすがたふりそで》の額の押絵の一体のようにも思う。……
瞬間には、ただ見られたと思う心を、棒にして、前後も左右も顧みず、衝々《つつ》と出、その裳《もすそ》に両手をついて跪《ひざまず》いた。
「小児は影法師も授《さずか》りません。……ただあやかりとう存じます。――写真は……拝借出来るのでございましょう
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