》に尾が生えつつ、宙を飛んで追駈《おっか》けたと言わねばならない。母のなくなった、一周忌の年であった。
父は児《こ》の手の化ものを見ると青くなって震えた。小遣銭をなまで持たせないその児の、盗心《ぬすみごころ》を疑って、怒ったよりは恐れたのである。
真偽を道具屋にたしかめるために、祖母がついて、大橋を渡る半ばで、母のおくつきのある山の峰を、孫のために拝んだ、小児《こども》も小さな両手を合せた。この時の流《ながれ》の音の可恐《おそろし》さは大地が裂けるようであった。「ああ、そうとは知りませぬ。――小児衆の頑是ない、欲しいものは欲しかろうと思うて進ぜました。……毎日見てござったは雛じゃったか。――それはそれは。……この雛はちと大金《たいまい》のものゆえに、進上は申されぬ――お邪魔でなくばその玩弄品《おもちゃ》は。」と、確《しか》と祖母に向って、道具屋が言ってくれた。が、しかし、その時のは綺麗な姉さんでも小母さんでもない。不精髯《ぶしょうひげ》の胡麻塩《ごましお》の親仁《おやじ》であった。と、ばけものは、人の慾《よく》に憑《つ》いて邪心を追って来たので、優《やさし》い婦《ひと》は幻影《まぼ
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