のが、すっと出て来て、「坊ちゃん、あげましょう。」と云って、待て……その雛ではない。定紋つきの塗長持の上に据えた緋《ひ》の袴《はかま》の雛のわきなる柱に、矢をさした靱《うつぼ》と、細長い瓢箪《ひょうたん》と、霊芝《れいし》のようなものと一所に掛けてあった、――さ、これが変だ。のちに思っても可思議《ふしぎ》なのだが、……くれたものというと払子《ほっす》に似ている、木の柄が、草石蚕《ちょうろぎ》のように巻きぼりして、蝦色《えびいろ》に塗ってあるさきの処に、一尺ばかり革の紐がばらりと一束ついている。絵で見た大将が持つ采配《さいはい》を略したような、何にするものだか、今もって解《わか》らない。が、町々辻々に、小児《こども》という小児が、皆おもちゃを持って、振ったり、廻したり、空《くう》を払《はた》いたりして飛廻った。半年ばかりですたれたが、一種の物妖《ぶつよう》と称《とな》えて可《よ》かろう。持たないと、生効《いきがい》のないほど欲しかった。が樹島にはそれがなかった。それを、夢のように与えられたのである。
 橋の上を振廻して、空を切って駈戻《かけもど》った。が、考えると、……化払子《ばけほっす
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