なび》いて、欄間の雲に浮出づる。影はささぬが、香にこぼれて、後にひかえつつも、畳の足はおのずから爪立《つまだ》たれた。
畳廊下を引返しざまに、敷居を出る。……夫人廟《ぶにんびょう》の壇の端に、その写真の数々が重ねてあった。
押絵のあとに、時代を違えた、写真を覘《のぞ》くのも学問である。
清水に洗濯した美女の写真は、ただその四五枚めに早く目に着いた。円髷《まるまげ》にこそ結ったが、羽織も着ないで、女の児《こ》らしい嬰児《みどりご》を抱《いだ》いて、写真屋の椅子にかけた像《かたち》は、寸分の違いもない。
こうした写真は、公開したもおなじである。産の安らかさに、児のすこやかさに、いずれ願ほどにあやかるため、その一枚を選んで借りて、ひそかに持帰る事を許されている。ただし遅速はおいて、複写して、夫人の御《おん》人々御中に返したてまつるべき事は言うまでもなかろう。
今日は方々にお賽銭《さいせん》が多い。道中の心得に、新しく調えた懐中に半紙があった。
目の露したたり、口許《くちもと》も綻《ほころ》びそうな、写真を取って、思わず、四辺《あたり》を見て半紙に包もうとした。
トタンに人気勢《
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