にないから、何も蔽《おお》わず、写真はあからさまになっている。しかし、婦《おんな》ばかりの心だしなみで、いずれも伏せてある事は言うまでもない。
 この写真が、いま言った百人一首の歌留多のように見えるまで、御堂は、金碧蒼然《きんぺきそうぜん》としつつ、漆と朱の光を沈めて、月影に青い錦《にしき》を見るばかり、厳《おごそか》に端《ただ》しく、清らかである。
 御厨子《みずし》の前は、縦に二十間がほど、五壇に組んで、紅《くれない》の袴《はかま》、白衣《びゃくえ》の官女、烏帽子《えぼし》、素袍《すおう》の五人|囃子《ばやし》のないばかり、きらびやかなる調度を、黒棚よりして、膳部《ぜんぶ》、轅《ながえ》の車まで、金高蒔絵《きんたかまきえ》、青貝を鏤《ちりば》めて隙間なく並べた雛壇《ひなだん》に較べて可《い》い。ただ緋毛氈《ひもうせん》のかわりに、敷妙《しきたえ》の錦である。
 ことごとく、これは土地の大名、城内の縉紳《しんしん》、豪族、富商の奥よりして供えたものだと聞く。家々の紋づくしと見れば可い。
 天人の舞楽、合天井の紫のなかば、古錦襴《こきんらん》の天蓋《てんがい》の影に、黒塗に千羽鶴の蒔絵
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