をした壇を据えて、紅白、一つおきに布を積んで、媚《なまめ》かしく堆《うずたか》い。皆新しい腹帯である。志して詣《もう》でた日に、折からその紅《くれない》の時は女の児《こ》、白い時は男の児が産れると伝えて、順を乱すことをしないで受けるのである。
 右左に大《おおき》な花瓶が据《すわ》って、ここらあたり、花屋およそ五七軒は、囲《かこい》の穴蔵を払ったかと思われる見事な花が夥多《おびただ》しい。白菊黄菊、大輪の中に、桔梗《ききょう》がまじって、女郎花《おみなえし》のまだ枯れないのは、功徳の水の恵であろう、末葉《うらは》も落ちず露がしたたる。
 時に、腹帯は紅であった。
 渠《かれ》が詣でた時、蝋燭《ろうそく》が二|挺《ちょう》灯《とも》って、その腹帯台の傍《かたわら》に、老女が一人、若い円髷《まるまげ》のと睦《むつま》じそうに拝んでいた。
 しばらくして、戸口でまた珠数を揉頂《もみいただ》いて、老女が前《さき》に、その二人が帰ったあとは、本堂、脇堂にも誰も居ない。
 ここに註《ちゅう》しておく。都会にはない事である。このあたりの寺は、どこにも、へだて、戸じまりを置かないから、朝づとめよりして
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