優しく、斜《ななめ》だちの横顔、瞳の濡々《ぬれぬれ》と黒目がちなのが、ちらりと樹島に移ったようである。颯《さっ》と睫毛《まつげ》を濃く俯目《ふしめ》になって、頸《えり》のおくれ毛を肱白く掻上げた。――漆にちらめく雪の蒔絵《まきえ》の指さきの沈むまで、黒く房《ふっさ》りした髪を、耳許《みみもと》清く引詰《ひッつ》めて櫛巻《くしまき》に結っていた。年紀《とし》は二十五六である。すぐに、手拭を帯に挟んで――岸からすぐに俯向くには、手を差伸《さしのば》しても、流《ながれ》は低い。石段が出来ている。苔も草も露を引いて皆青い。それを下りさまに、ふと猶予《ためら》ったように見えた。ああ、これは心ないと、見ているものの心着く時、褄《つま》を取って高く端折《はしょ》った。婦《おんな》は誰も長襦袢《ながじゅばん》を着ているとは限らない。ただ一重の布も、膝の下までは蔽わないで、小股をしめて、色薄く縊《くび》りつつ、太脛《ふくらはぎ》が白く滑《なめら》かにすらりと長く流《ながれ》に立った。
ひたひたと絡《まつわ》る水とともに、ちらちらと紅《くれない》に目を遮ったのは、倒《さかさま》に映るという釣鐘の竜の炎で
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