バスケットに、等閑《なおざり》に絡《から》めたままの、城あとの崩《くず》れ堀《ぼり》の苔《こけ》むす石垣《いしがき》を這《は》って枯れ残った小さな蔦《つた》の紅《くれない》の、鶫《つぐみ》の血のしたたるごときのを見るにつけても。……急に寂しい。――「お米さん、下階《した》に座敷はあるまいか。――炬燵に入ってぐっすりと寝たいんだ。」
二階の部屋々々は、時ならず商人衆《あきんどしゅう》の出入《ではい》りがあるからと、望むところの下座敷、おも屋から、土間を長々と板を渡って離れ座敷のような十畳へ導かれたのであった。
肱掛窓《ひじかけまど》の外が、すぐ庭で、池がある。
白雪の飛ぶ中に、緋鯉《ひごい》の背、真鯉の鰭《ひれ》の紫は美しい。梅も松もあしらったが、大方は樫槻《かしけやき》の大木である。朴《ほお》の樹《き》の二|抱《かか》えばかりなのさえすっくと立つ。が、いずれも葉を振るって、素裸《すはだか》の山神《さんじん》のごとき装いだったことは言うまでもない。
午後三時ごろであったろう。枝に梢《こずえ》に、雪の咲くのを、炬燵で斜違《はすか》いに、くの字になって――いい婦《おんな》だとお目に掛
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