と怪我《けが》があるんでして……よく、その姐《ねえ》さんは御無事でした。この贄川の川上、御嶽口《おんたけぐち》。美濃《みの》寄りの峡《かい》は、よけいに取れますが、その方《かた》の場所はどこでございますか存じません――芸妓衆《げいしゃしゅう》は東京のどちらの方《かた》で。」
「なに、下町の方ですがね。」
「柳橋……」
と言って、覗《のぞ》くように、じっと見た。
「……あるいはその新橋とか申します……」
「いや、その真中ほどです……日本橋の方だけれど、宴会の席ばかりでの話ですよ。」
「お処が分かって差支《さしつか》えがございませんければ、参考のために、その場所を伺っておきたいくらいでございまして。……この、深山幽谷のことは、人間の智慧《ちえ》には及びません――」
女中も俯向《うつむ》いて暗い顔した。
境は、この場合|誰《だれ》もしよう、乗り出しながら、
「何か、この辺に変わったことでも。」
「……別にその、と云ってございません。しかし、流れに瀬がございますように、山にも淵《ふち》がございますで、気をつけなければなりません。――ただいまさしあげました鶫《つぐみ》は、これは、つい一両日
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