のしらじらに、向うの尾上《おのえ》を、ぱっとこちらの山の端《は》へ渡る鶫の群れが、むらむらと来て、羽ばたきをして、かすみに掛かる。じわじわととって占めて、すぐに焚火《たきび》で附け焼きにして、膏《あぶら》の熱いところを、ちゅッと吸って食べるんだが、そのおいしいこと、……と言って、話をしてね……」
「はあ、まったくで。」
「……ぶるぶる寒いから、煮燗《にえかん》で、一杯のみながら、息もつかずに、幾口か鶫を噛《かじ》って、ああ、おいしいと一息して、焚火にしがみついたのが、すっと立つと、案内についた土地の猟師が二人、きゃッと言った――その何なんですよ、芸妓の口が血だらけになっていたんだとさ。生々《なまなま》とした半熟の小鳥の血です。……とこの話をしながら、うっかりしたようにその芸妓は手巾《ハンケチ》で口を圧《おさ》えたんですがね……たらたらと赤いやつが沁《し》みそうで、私は顔を見ましたよ。触《さわ》ると撓《しな》いそうな痩《や》せぎすな、すらりとした、若い女で。……聞いてもうまそうだが、これは凄《すご》かったろう、その時、東京で想像しても、嶮《けわ》しいとも、高いとも、深いとも、峰谷の重なり
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