すよ。」
「旦那様、帳場でも、あの、そう申しておりますの。鶫は焼いてめしあがるのが一番おいしいんでございますって。」
「お膳にもつけて差し上げましたが、これを頭から、その脳味噌《のうみそ》をするりとな、ひと噛《かじ》りにめしあがりますのが、おいしいんでございまして、ええとんだ田舎流儀ではございますがな。」
「お料理番さん……私は決して、料理をとやこう言うたのではないのですよ。……弱ったな、どうも。実はね、あるその宴会の席で、その席に居た芸妓《げいしゃ》が、木曾の鶫の話をしたんです――大分酒が乱れて来て、何とか節というのが、あっちこっちではじまると、木曾節というのがこの時|顕《あら》われて、――きいても可懐《なつか》しい土地だから、うろ覚えに覚えているが、(木曾へ木曾へと積み出す米は)何とかっていうのでね……」
「さようで。」
と真四角に猪口《ちょく》をおくと、二つ提《さ》げの煙草《たばこ》入れから、吸いかけた煙管《きせる》を、金《かね》の火鉢《ひばち》だ、遠慮なくコッツンと敲《たた》いて、
「……(伊那《いな》や高遠《たかと》の余り米)……と言うでございます、米、この女中の名でござい
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