「つきまして、……ただいま、女どもまでおっしゃりつけでございましたが、鶫を、貴方様《あなたさま》、何か鍋でめしあがりたいというお言《ことば》で、いかようにいたして差し上げましょうやら、右、女どももやっぱり田舎《いなか》もののことでございますで、よくお言がのみ込めかねます。ゆえに失礼ではございますが、ちょいとお伺いに出ましてございますが。」
 境は少なからず面くらった。
「そいつはどうも恐縮です。――遠方のところを。」
 とうっかり言った。……
「串戯《じょうだん》のようですが、全く三階まで。」
「どう仕《つかまつ》りまして。」
「まあ、こちらへ――お忙しいんですか。」
「いえ、お膳《ぜん》は、もう差し上げました。それが、お客様も、貴方様のほか、お二組ぐらいよりございません。」
「では、まあこちらへ。――さあ、ずっと。」
「はッ、どうも。」
「失礼をするかも知れないが、まあ、一杯《ひとつ》。ああ、――ちょうどお銚子が来た。女中《ねえ》さん、お酌をしてあげて下さい。」
「は、いえ、手前不調法で。」
「まあまあ一杯《ひとつ》。――弱ったな、どうも、鶫《つぐみ》を鍋でと言って、……その何で
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