も、一旦親戚の儀を約束いたし候えば、義理堅かりし重隆殿の先人に対し面目なく、今さら変替《へんがえ》相成らず候あわれ犠牲《いけにえ》となりて拙者の名のために彼の人に身を任せ申さるべく、斯《こ》の遺言を認《したた》め候時の拙者が心中の苦痛を以て、御身に謝罪いたし候
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月 日[#地から2字上げ]清川|通知《みちとも》
お通殿
二度三度繰返して、尉官は容《かたち》を更《あらた》めたり。
「通、吾《おれ》は良人だぞ。」
お通は聞きて両手を支《つか》えぬ。
「はい、貴下《あなた》の妻でございます。」
その時尉官は傲然《ごうぜん》として俯向《うつむ》けるお通を瞰下《みおろ》しつつ、
「吾のいうことには、汝《おまえ》、きっと従うであろうな。」
此方《こなた》は頭《こうべ》を低《た》れたるまま、
「いえ、お従わせなさらなければ不可《いけ》ません。」
尉官は眉を動かしぬ。
「ふむ。しかし通、吾を良人とした以上は、汝、妻たる節操は守ろうな。」
お通は屹《きっ》と面を上げつ、
「いいえ、出来さえすれば破ります。」
尉官は怒気心頭を衝《つ》きて烈火のご
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