琵琶伝
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)床杯《とこさかずき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)皆|他《ひと》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+阿」、第4水準2−4−5]呀《あなや》
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       一

 新婦が、床杯《とこさかずき》をなさんとて、座敷より休息の室《ま》に開きける時、介添の婦人《おんな》はふとその顔を見て驚きぬ。
 面貌《めんぼう》ほとんど生色なく、今にも僵《たお》れんずばかりなるが、ものに激したる状《さま》なるにぞ、介添は心許《こころもと》なげに、つい居て着換を捧げながら、
「もし、御気分でもお悪いのじゃございませんか。」
 と声を密《ひそ》めてそと問いぬ。
 新婦は凄冷《せいれい》なる瞳を転じて、介添を顧みつ。
「何。」
 とばかり簡単に言捨てたるまま、身さえ眼をさえ動かさで、一心ただ思うことあるその一方を見詰めつつ、衣を換うるも、帯を緊《し》むるも、衣紋《えもん》を直すも、褄《つ
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