はじめよりお通の我を嫌うこと、蛇蝎《だかつ》もただならざるを知りながら、あたかも渠《かれ》に魅入《みいり》たらんごとく、進退|隙《すき》なく附絡《つきまと》いて、遂にお通と謙三郎とが既に成立せる恋を破りて、おのれ犠牲《いけにえ》を得たりしにもかかわらず、従兄妹《いとこ》同士が恋愛のいかに強きかを知れるより、嫉妬《しっと》のあまり、奸淫《かんいん》の念を節し、当初婚姻の夜《よ》よりして、衾《ふすま》をともにせざるのみならず、一たびも来りてその妻を見しことあらざる、孤屋《ひとつや》に幽閉の番人として、この老夫《おやじ》をば択《えら》びたれ。お通は止《や》むなく死力を出して、瞬時伝内とすまいしが、風にも堪えざるかよわき婦人《おんな》の、憂《うき》にやせたる身をもって、いかで健腕に敵し得べき。
手もなく奥に引立てられて、そのままそこに押据えられつ。
たといいかなる手段にても到底この老夫《おやじ》をして我に忠ならしむることのあたわざるをお通は断じつ。激昂《げっこう》の反動は太《いた》く渠をして落胆せしめて、お通は張《はり》もなく崩折《くずお》れつつ、といきをつきて、悲しげに、
「老夫《じい》
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