、生命《いのち》が縮まるように思っただ。すると案じるより産《うむ》が安いで、長い間こうやって一所に居るが、お前様の断念《あきらめ》の可いには魂消《たまげ》たね。思いなしか、気のせいか、段々|窶《やつ》れるようには見えるけんど、ついぞ膝も崩した事なし、整然《ちゃん》として威勢がよくって、吾、はあ、ひとりでに天窓《あたま》が下るだ、はてここいらは、田舎も田舎だ。どこに居た処で何の楽《たのしみ》もねえ老夫《じじい》でせえ、つまらねえこったと思って、気が滅入《めい》るに、お前様は、えらい女《ひと》だ。面壁イ九年とやら、悟ったものだと我《が》あ折っていたんだがさ、薬袋《やくたい》もないことが湧《わ》いて来て、お前様ついぞ見たこともねえ泣かっしゃるね。御心中のウ察しねえでもねえけんどが、旦那様にゃあ、代えられましねえ。はて、お前様のようでもねえ。断念《あきら》めてしまわっしゃい。どのみちこう謂い出したからにゃいくら泣いたってそりゃ駄目さ。」
しかり親仁《おやじ》のいいたるごとく、お通は今に一年間、幽閉されたるこの孤屋《ひとつや》に処して、涙に、口に、はた容儀、心中のその痛苦を語りしこと絶えてあら
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