見る憂慮《きづかい》もあるまいから。」
「そりゃ不可《いけね》えだ。何でも、は、お前様《めえさま》に気を着けて、蚤《のみ》にもささせるなという、おっしゃりつけだアもの。眼を潰すなんてあてごともない。飛んだことをいわっしゃる。それにしてもお前様眼が見えねえでも、口が利くだ。何でも、はあ、一切、男と逢わせることと、話談《はなし》をさせることがならねえという、旦那様のおっしゃりつけだ。断念《あきら》めてしまわっしゃい。何といっても駄目でござる。」
お通は胸も張裂くばかり、「ええ。」と叫びて、身を震わし、肩をゆりて、
「イ、一層、殺しておしまいよう。」
伝内は自若として、
「これ、またあんな無理を謂うだ。蚤にも喰わすことのならねえものを、何として、は、殺せるこんだ。さ駄々を捏《こ》ねねえでこちらへござれ。ひどい蚊だがのう。お前様アくわねえか。」
「ええ、蚊がくうどころのことじゃないわね。お前もあんまり因業《いんごう》だ、因業だ、因業だ。」
「なにその、いわっしゃるほど因業でもねえ。この家《や》をめざしてからに、何遍も探偵が遣《や》って来るだ。はい、麻畑と謂ってやりゃ、即座に捕まえられて、吾
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