ッからどの位、おしらべが来たか知れないもの、おつかまりなさりゃそれッきりじゃあないか。何の、ちょっとぐらい顔を見せたからって、見たからって、お前、この夜中だもの、ね、お前この夜中だもの、旦那に知れッこはありゃしないよ。でもそれでも料簡《りょうけん》がならなけりゃお前でも可い、お前でも可いからね、実はあの隠れ忍んで、ようよう拵《こしら》えたこの召食事《あがるもの》をそっと届けて来ておくれ、よ、後生だよ。私に一目逢おうとってその位に辛抱遊ばす、それを私の身になっちゃあ、ま、どんなだろうとお思いだ。え、後生だからさ、もう、私ゃ居ても、起《た》っても、居られやしないよ。後生だからさ、ちょっと届けて来ておくれなね。」
伝内はただ頭《こうべ》を掉《ふ》るのみ。
「何を謂わッしても駄目なこんだ。そりゃ、は、とても駄目でござる。こんなことがあろうと思わっしゃればこそ、旦那様が扶持《ふち》い着けて、お前様《めえさま》の番をさして置かっしゃるだ。」
お通はいとも切なき声にて、
「さ、さ、そのことは聞えたけれど……ああ、何といって頼みようもない。一層お前、わ、私の眼を潰《つぶ》しておくれ、そうしたら顔を
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