隅の隅が、山扁の嵎《ぐう》といった僻地《へきち》で……以前は、里からではようやく木樵《きこり》が通いますくらい、まるで人跡絶えたといった交通の不便な処でございましてな、地図をちょっと御覧なすっても分りますが、絶所、悪路の記号という、あのパチパチッとした線香花火が、つい頭の上の山々を飛び廻っているのですから。……手前、幼少の頃など、学校を怠《ずる》けて、船で淡島へ渡って、鳥居前、あの頂辺《てっぺん》で弁当を食べるなぞはお茶の子だったものですが、さて、この三津、重寺、口野一帯と来ますと、行軍の扮装《いでたち》でもむずかしい冒険だとしたものでしてな。――沖からこの辺の浦を一目に眺めますと、弁天島に尾を曳《ひ》いて、二里三里に余る大竜が一条《ひとすじ》、白浪の鱗《うろこ》、青い巌《いわ》の膚《はだ》を横《よこた》えたように見える、鷲頭山を冠《かむり》にして、多比の、就中《なかんずく》入窪《いりくぼ》んだあたりは、腕を張って竜が、爪に珠を掴《つか》んだ形だと言います。まったく見えますのでな。」
「乗ってるんですね! その上にいま……何だか足が擽《くすぐ》ったいようですね。」
記者はシイツに座を
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