半島一奇抄
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)相乗《あいのり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一台|大《おおい》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+散」、70−7]《しぶき》
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「やあ、しばらく。」
 記者が掛けた声に、思わず力が入って、運転手がはたと自動車を留めた。……実は相乗《あいのり》して席を並べた、修善寺の旅館の主人の談話を、ふと遮った調子がはずんで高かったためである。
「いや、構わず……どうぞ。」
 振向いた運転手に、記者がちょっとてれながら云ったので、自動車はそのまま一軋《ひときし》りして進んだ。
 沼津に向って、浦々の春遅き景色を馳《はし》らせる、……土地の人は(みっと)と云う三津《みと》の浦を、いま浪打際とほとんどすれすれに通る処《ところ》であった。しかし、これは廻り路《みち》である。
 小暇を得て、修善寺に遊んだ、一――新聞記者は、暮春の雨に、三日ばかり降込められた、宿の出入りも
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