唯今でも皆がそう言うのでございますがな、これが変です。足を狙うのが、朝顔を噛むようだ。爪さきが薄く白いというのか、裳《もすそ》、褄《つま》、裾《すそ》が、瑠璃《るり》、青、紅《あか》だのという心か、その辺が判明《はっきり》いたしません。承った処では、居士だと、牡丹《ぼたん》のおひたしで、鼠は朝顔のさしみですかな。いや、お話がおくれましたが、端初《はな》から、あなた――美しい像は、跣足《はだし》だ。跣足が痛わしい、お最惜《いとし》い……と、てんでに申すんですが、御神体は格段……お仏像は靴を召さないのが多いようで、誰もそれを怪《あやし》まないのに、今度の像に限って、おまけに、素足とも言わない、跣足がお痛わしい――何となく漂泊流離の境遇、落ちゅうどの様子があって、お最惜い。そこを鼠が荒すというのは、女像全体にかかる暗示の意味が、おのずから人の情に憑《うつ》ったのかも知れません。ところで、浜方でも相談して、はじめ、寄り着かれた海岸近くに、どこか思召しにかなった場所はなかろうかと、心して捜すと、いくらもあります。これは陸《おか》で探るより、船で見る方が手取《てっと》り早うございますよ。樹の根、巌
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