説がいくらもあります。それが、目の前へ、その不思議が現われて来たものなんです。第一、竹筒ばかりではない。それがもう一重《ひとえ》、セメン樽《だる》に封じてあったと言えば、甚しいのは、小さな櫂《かい》が添って、箱船に乗せてあった、などとも申します。
 何しろ、美《うつくし》い像だけは事実で。――俗間で、濫《みだり》に扱うべきでないと、もっともな分別です。すぐに近間《ちかま》の山寺へ――浜方一同から預ける事にしました。が、三日も経《た》たないのに、寺から世話人に返して来ました。預った夜《よ》から、いままでに覚えない、凄《すさま》じい鼠の荒れ方で、何と、昼も騒ぐ。……(困りましたよ、これも、あなたのお話について言うようですが)それが皆その像を狙《ねら》うので、人手は足りず、お守をしかねると言うのです。猫を紙袋《かんぶくろ》に入れて、ちょいとつけばニャンと鳴かせる、山寺の和尚さんも、鼠には困った。あと、二度までも近在の寺に頼んだが、そのいずれからも返して来ます。おなじく鼠が掛《かか》るので。……ところが、最初の山寺でもそうだったと申しますが、鼠が女像の足を狙う。……朝顔を噛《か》むようだ。……
前へ 次へ
全33ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング