なた、だんだん腹這《はらば》いにぐにゃぐにゃと首を伸ばして、ずるずると鰯の山を吸込むと、五|斛《こく》、十斛、瞬く間に、満ちみちた鰯が消えて、浜の小雨は貝殻をたたいて、暗い月が砂に映ったのです。(まだあるか、)と仰向《おあおむ》けに起きた、坊主の腹は、だぶだぶとふくれて、鰯のように青く光って、げいと、口から腥《なまぐさ》い息を吹いた。随分大胆なのが、親子とも気絶しました。鮟鱇《あんこう》坊主《ぼうず》と、……唯今でも、気味の悪い、幽霊の浜風にうわさをしますが、何の化ものとも分りません。――
 といった場処で。――しかし、昨年――今度の漂流物は、そんな可厭《いや》らしいものではないので。……青竹の中には、何ともたとえがたない、美しい女像がありました。ところが、天女のようだとも言えば、女神の船玉様の姿だとも言いますし、いや、ぴらぴらの簪《かんざし》して、翡翠《ひすい》の耳飾を飾った支那《しな》の夫人の姿だとも言って、現に見たものがそこにある筈《はず》のものを、確《しか》と取留めたことはないのでございますが、手前が申すまでもありません。いわゆる、流れものというものには、昔から、種々の神秘な伝
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