思ううちに、水玉を投げて、紅《くれない》の※[#「さんずい+散」、70−7]《しぶき》を揚げると、どうでしょう、引いている川添の家《や》ごとの軒より高く、とさかの燃えるように、水柱を、颯《さっ》と揃って挙げました。
 居士が、けたたましく二つ三つ足蹈《あしぶみ》をして、胸を揺《ゆす》って、(火事じゃ、……宿《しゅく》じゃ、おたにの方じゃ――御免。)とひょこひょこと日和下駄《ひよりげた》で駆出しざまに、門を飛び出ようとして、振返って、(やあ、皆も来てくれ。)尋常《ただ》ごとではありません。植木屋|徒《であい》も誘われて、残らずどやどや駆けて出る。私はとぼんとして、一人、離島《はなれじま》に残された気がしたんです。こんな島には、あの怪《あやし》い大鼠も棲《す》もうと思う、何となく、気を打って、みまわしますとね。」
「はあ――」
「ものの三間とは離れません。宮裏に、この地境《じざかい》らしい、水が窪み入った淀《よど》みに、朽ちた欄干ぐるみ、池の橋の一部が落込んで、流《ながれ》とすれすれに見えて、上へ落椿が溜《たま》りました。うつろに、もの寂しくただ一人で、いまそれを見た時に、花がむくむくと動
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