《くぐ》って遁げたのではありますまいが、宮裏の森の下の真暗《まっくら》な中に落重《おちかさな》った山椿の花が、ざわざわと動いて、あとからあとから、乱れて、散って、浮いて来る。……大木の椿も、森の中に、いま燃ゆるように影を分けて、その友だちを覗《のぞ》いたようです。――これはまた見ものになった――見るうちに、列を織って、幾つともなく椿の花が流れて行く。……一町ばかり下《しも》に、そこに第一の水車《みずぐるま》が見えます。四五間さきに水車、また第三の水車、第四、第五と続いたのが見えます。流《ながれ》の折曲る処に、第六のが半輪の月形に覗いていました。――見る内に、その第一の水車の歯へ、一輪紅椿が引掛《ひっかか》った――続いて三ツ四ツ、くるりと廻るうちに七ツ十ウ……たちまちくるくると緋色に累《かさな》ると、直ぐ次の、また次の車へもおなじように引搦《ひっからま》って、廻りながら累るのが、流れる水脚のままなんですから、早いも遅いも考える間はありません。揃って真紅な雪が降積るかと見えて、それが一つ一つ、舞いながら、ちらちらと水晶を溶いた水に揺れます。呆気《あっけ》に取られて、ああ、綺麗だ、綺麗だ、と
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