り》は石山に高く囀《さえず》って、鼓草《たんぽぽ》の綿がタイヤの煽《あおり》に散った。四日町は、新しい感じがする。両側をきれいな細流が走って、背戸、籬《まがき》の日向《ひなた》に、若木の藤が、結綿《ゆいわた》の切《きれ》をうつむけたように優しく咲き、屋根に蔭つくる樹の下に、山吹が浅く水に笑う……家ごとに申合せたようである。
記者がうっかり見愡《みと》れた時、主人が片膝を引いて、前へ屈《かが》んで、「辰さん――道普請がある筈《はず》だが前途《さき》は大丈夫だろうかね。」「さあ。」「さあじゃないよ、それだと自動車は通らないぜ。」「もっとも半月の上になりますから。」と運転手は一筋路を山の根へ見越して、やや反《そ》った。「半月の上だって落着いている処じゃないぜ。……いや、もうちと後路《あと》で気をつけようと、修善寺を出る時から思っていながら、お客様と話で夢中だった。――」「何、海岸まわりは出来ないのですかね。」「いいえ、南条まで戻って、三津へ出れば仔細《しさい》ありませんがな、気の着かないことをした。……辰さん、一度聞いた方がいいぜ。」「は、そういたしましょう。」「恐ろしく丁寧になったなあ。
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