々と重《かさな》って、その茂ったのが底まで澄んで、透通って、軟《やわらか》な細い葉に、ぱらぱらと露を丸く吸ったのが水の中に映るのですが――浮いて通るその緋色《ひいろ》の山椿が……藻のそよぐのに引寄せられて、水の上を、少し斜《ななめ》に流れて来て、藻の上へすっと留まって、熟《じっ》となる。……浅瀬もこの時は、淵《ふち》のように寂然《しん》とする。また一つ流れて来ます。今度は前の椿が、ちょっと傾いて招くように見えて、それが寄るのを、いま居た藻の上に留めて、先のは漾《ただよ》って、別れて行く。
また一輪浮いて来ます。――何だか、天の川を誘い合って、天女の簪《かんざし》が泳ぐようで、私は恍惚《うっとり》、いや茫然《ぼうぜん》としたのですよ。これは風情じゃ……と居士も、巾着《きんちゃく》じめの煙草入の口を解いて、葡萄《ぶどう》に栗鼠《りす》を高彫《たかぼり》した銀|煙管《ぎせる》で、悠暢《ゆうちょう》としてうまそうに喫《の》んでいました。
目の前へ――水が、向う岸から両岐《ふたつ》に尖《とが》って切れて、一幅《ひとはば》裾拡《すそひろ》がりに、風に半幅を絞った形に、薄い水脚が立った、と思うと
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