のも、おさすりらしいが、柔《やわらか》ずくめで、前垂《まえだれ》の膝も、しんなりと軟《やわらか》い。……その癖半襟を、頤《あご》で圧《お》すばかり包ましく、胸の紐の結びめの深い陰から、色めく浅黄の背負上《しょいあげ》が流れたようにこぼれている。解けば濡れますが、はい、身はかたく緊《し》めて包んで置きます、といった風容《ふう》。……これを少々気にしたが悪いだろうか……お伽堂の店番を。
三
何、別に仔細《しさい》はない。客引に使った中年増でもなければ、手軽な妾《めかけ》が世間体を繕っているのでもない。お伽堂というのは、この女房の名の、おときをちょっと訛《なま》ったので。――勿論亭主の好みである。
つい近頃、北陸の城下町から稼ぎに出て来た。商売往来の中でも、横町へそれた貸本屋だが、亭主が、いや、役人上りだから主人といおう、県庁に勤めた頃、一切猟具を用いず、むずと羽掻《はがい》をしめて、年紀《とし》は娘にしていい、甘温、脆膏《ぜいこう》、胸白《むなじろ》のこの鴨《かも》を貪食した果報ものである、と聞く。が、いささか果報焼けの気味で内臓を損じた。勤労に堪えない。静養かたがた
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