薄紅梅
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)麹町《こうじまち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)演義三国誌|常套手段《おきまり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]
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       一

 麹町《こうじまち》九段――中坂《なかざか》は、武蔵鐙《むさしあぶみ》、江戸砂子《えどすなご》、惣鹿子《そうかのこ》等によれば、いや、そんな事はどうでもいい。このあたりこそ、明治時代文芸発程の名地である。かつて文壇の梁山泊《りょうざんぱく》と称えられた硯友社《けんゆうしゃ》、その星座の各員が陣を構え、塞頭《さいとう》高らかに、我楽多文庫《がらくたぶんこ》の旗を飜《ひるがえ》した、編輯所《へんしゅうじょ》があって、心織筆耕の花を咲かせ、綾《あや》なす霞を靉靆《たなび》かせた。
 若手の作者よ、小説家よ!……天晴《あっぱ》れ、と一つ煽《あお》いでやろうと、扇子を片手に、当時文界の老将軍――佐久良《さく
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